忍者ブログ
ひっそりヲタなはなし。 えば熱復活中(ミサ加持限定)。 ブログ内全ての無断複製及び転載を禁じます。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

北米支部に配属されて2年目の秋

この季節が苦手になったのは君を・・・
葛城の事を思い出さずにいられないからなのか

それにしても懐かしくも過去に置いてきた記憶が
今日はリアルに感じられた


(犯人はこれか・・・)


大柄な女子職員が得意気な笑顔で大きめの鉢を抱えていた
・・・そのふわっとした香りがあたりを漂う

その女性職員が大きめの鉢を俺に差し出す


「プレゼントよ」
「これはアジアの花なのね、日本にも沢山あったと聞いたわ」

「懐かしいでしょ」


(・・・懐かしいどころか)


思わず苦笑する

そのオレンジ色ちいさな花の香りは
ずっと忘れようとしても忘れられない
君の事をまた心に強く刻み付けるだけだから



大学三年生の秋
後期が始まっても君の姿は何処にも無かった

『捨てといて』と乱暴に書かれた紙が段ボールに貼られていた

出て行った君の私物は整理が苦手だけあり分別もされず
とにかく無造作に入れられていたけれど
使える物が多く捨てれずにまだアパートにある

どうしようか夏休み中に連絡を取ろうとして・・・やめた


『他に好きな人が出来たの』


その言葉を素直に信じた訳ではない
誤解される様な行動を取っていたのは俺の方だ

俺にはやらなければいけない事があったはずだった
だがそれを忘れる程にしあわせな時間を彼女はくれた

いつまでもこんな時間を過ごしていられないと思いつつ
俺は出来る限り君と一緒にいる事を望んだ
その時間を引き延ばせば引き延ばす程
君への愛おしさが増すだけだった

どうしても君から離れなくてはいけないのに
どうしても別れを告げられない

俺はどうしようもなく君との恋に溺れていた

酒と女性で自分をごまかし続けて
やっと君が俺に愛想を尽かし別れを切り出した時は
ちゃんと理解した振りをしてその男との事を
応援までする様な言葉をかけて

でも心は悲鳴をあげていた


それに俺は知っている

真面目な君がそんな簡単に他の男と恋愛出来る訳がない
付き合っている間も思わなかったし
今この段階でさえ思えなかった
・・・思いたくなかっただけかもしれないが

ただ万が一その事が本当だったらと思うと
君の私物の件は夏休みが終わってからでいいと
学校が始まるまではそれについて考える事から逃げた


だが後期が始まっても君の姿はおろか存在さえない

単位は殆ど取り切っていてもゼミは入るはずだと思ったのに
どこのゼミにも所属していなかった

知り合いの誰に聞いても居場所が分からない
君の友達も俺と君が別れた事を知らず
誰も君が姿を見せなくなった理由を
全く知らない事に不安と焦りを感じる

唯一知っていると思われたリっちゃんも
あまり大学で姿を見かけず研究室に入り浸り
その口は重く閉ざされている

大学に聞いても個人情報だから答えられないの一点張り
そう言われると分かっていても
聞かずにいられなかった俺は多分冷静ではなかった

学校が始まって1週間経っても君を見つけられない
あまり人気の無い大学の中庭で
講義も出ずに君の事を考え続けてた

どこからか漂って俺を包む花の香りがする
本来心地よい物なのだろうが
心穏やかではない俺を余計に苛立たせた
その香りを消す為に煙草を吸い続け途方に暮れる


結局俺は別れたはずの葛城を

捜して捜して捜して

捜し続けて

やっと拾った情報は戦自の訓練所だった


それから君の居場所を確認する為に
全てを知っているはずのリっちゃんに
何回かコンタクトしてやっと会ってもらえる事になった

待ち合わせの喫茶店に近づくとまたあの花の香りがする
どうやら喫茶店の生垣になっているオレンジ色の花がその正体で
まわりにその香りを振りまいているようだった

この匂いがどうしても好きになれない
君を捜す為にいろんな場所へ足を運んだ
そして何処へ行ってもこの香りに追いかけられ断ち切れない

まるで俺自身の君への想いの様なそんな感覚に俺は陥る


「そうよあのコは戦自の養成プログラムに入ったわ」


コーヒーを一口だけ飲み
吐き捨てる様にリっちゃんは言う

彼女の声はいつもに増して冷たくキツイ


「・・・そっか間違いないのか」


いつも通りに軽く受け流すつもりだった
けれど自分でも顔が強張るのが分かる


「どうして気になるの」
「もうミサトとは何でもないんでしょ」


リツコの口からピンと糸を張った様な
真直ぐで冷たい言葉が投げかけられる


その通りだった

葛城とはもう別れた
自分勝手に俺が望んだ事だ

リっちゃんに返す言葉も無く俺は煙草に火をつけた


(戦自か・・・)


戦略自衛隊に入隊をすることを希望する学生が
軍隊独特の専門分野の勉強をしながら訓練もする

戦略自衛隊も人員不足で人材が必要だったし
大学のうちからこのプログラムを受ける事で
戦自も幹部をすぐに養成できる

しかし大学の単位となる訳ではない
卒業に足りる単位をとりきっていないものは
養成プログラム中にも別メニューで
その勉強をしなければならないという厳しい環境でもあった

また希望して入れる訳でもなく
適正のある生徒に大学を通して打診があり
最終的には生徒がどうするか決める

ただ生徒が訓練所に入所した情報は開示されず
表向きは民間企業などの研修扱いとなる為に
この養成プログラムを知っている者は
声をかけられた者が初めて知る

それがその時かき集めた情報の全て


(俺が知っているのはそれ位か)
(あいつは今何やってんだろうな・・・)


葛城がどうしているのか知りたかった
そしてこれからも情報を集める為に
俺は諜報活動をするつもりだった

煙草は一度しか肺に入れていないのに
もう燃え尽きかけている


(随分と意識を飛ばしていたみたいだな)


我に返るとリっちゃんが怪訝な顔で俺を見ていた
その煙草を携帯の灰皿に押し付け新しい煙草を出す

するとリっちゃんが火を貸してくれる


「・・・ねぇリョウちゃん」


彼女の声の棘が消えた


「ミサトと貴方は友達とはいえ男と女の事だし・・・」
「何があったかなんて私がとやかく言う問題ではないのだろうけれど」


リっちゃんも煙草を出した
今度は俺が火を貸そうとしたが
彼女はその煙草を箱に戻してコーヒーを口に運んだ


「リョウちゃんと付き合っているうちは大丈夫だと思ったのよ」


彼女は薄く笑った・・・無理している様にも見える


「ミサトが将来的にそういった道へ進むのはなんとなく分かっていたけれど」
「貴方の手の中にいつも収まっているあのコを見てたし」
「在学中に・・・こんなに早く行くとは思わなかったのよ」


俺はその時素直に自分の気持ちを語るリっちゃんを
初めて見た気がした

おそらく唯一無二の友人が離れていった事に
寂しさを隠しきれないのだと思う


「・・・すまないリっちゃん」


心からそう思う

あまり自分の事を話さない彼女がそんな本音を漏らすだけで
俺には充分にリっちゃんの気持ちが分かった


「ミサト・・・ね」
「しあわせそうだったわ、貴方といて」


彼女が今日会って初めて真直ぐ俺を見た


「わたしも楽しかったわ」


冷えきったコーヒーカップを彼女は
大事そうに両手で包み込む様に持ち
その中の茶色い液体を静かに見つめてる


「リョウちゃんも寂しくなるわね」


リっちゃんはそう言うと窓の外を見て眉をひそめた


「・・・外の香り嫌いだわ」



まるで葛城のいない現実に割り込む様に入ってくるあの香り
気がつけば俺も彼女も煙草を一箱開けていた

逃げる様に濃いコーヒーと煙草をあおり
お互い言葉少なに過ごした

そして別れ際
生垣に植えられたオレンジ色のちいさな花木が
『金木犀』という花だとリっちゃんは教えてくれた


以来日本にいても海外にいても
金木犀がそこに存在しようとしまいと
秋が来ると記憶に染み付いたその香りがどこまでも追いかけて来て
葛城を捜し続けたあの時の自分と一緒にフラッシュバックする


何故毎年この季節が辛いのか
何故未だにいつも君の面影を追いかけるのか
何故君を守ってやれなかったのか

何故自分の復讐を・・・優先したのか


もしあの時君を離さなければ
俺達には違う人生があったのだろうか




「とてもいい香りね」


女性職員の声に我に返った


「貴方っていい男なのにいつまで経っても彼女も出来ないし」
「・・・ひょっとしたらホームシックなのかと思って」


そして彼女はいつまでレディに持たせるのと
俺に金木犀の鉢を押し付ける

それにしてもアメリカまで来て
この珍しい金木犀の鉢植えが
自分の元へやってくるとは思わなかった

苦い笑みがこぼれる

これは葛城をしあわせにしてやれなかった
罰なのだろうか

その小さなオレンジの花の香りはリアルに鼻をくすぐる
やはりあの時の自分を忘れさせてはくれることはなく
胸が締め付けられる様に痛い

そのプレゼントを辞退しようとおもったが・・・やめた

何故か数えきれない位に集まったちいさなオレンジの花を見つめると
心の底から沸き上がる愛しさを止めようがないのだった


「・・・大事にするよ」


鉢を見るとまた別の痛みが心を襲う

それは間違いなく今でも君を恋しく思う俺が
この花にその気持ちを忘れる事は出来ないと語りかけられている様だった
PR
プロフィール
HN:
さとみ。
HP:
性別:
非公開
自己紹介:
ヲタ徒然日記。
ミサト@えば中心
カレンダー
05 2025/06 07
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30
ブログ内検索
忍者カウンター
Copyright ©  -- 白夜のなかで。 --  All Rights Reserved
Design by CriCri / Material by White Board

powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]